思い出も、いいもんだ。

先週の金曜日、天満の駅前で一杯呑んだ後、いつものようにあてもなくうろうろしていると、天六の方から見覚えのある初老の紳士がゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。Yさんだ、間違いなくそうだ。
私がまだ若い頃、公私にわたって大変お世話になった写真家である。ご迷惑ではあったろうが、当時、若気の至りが引き起こした大失敗も、嫌な顔一つなさらず、にこにこ笑いながら見事に尻ぬぐいをしていただいたこともあったりと、思い出すと赤面する話も、挙げれば切りがない。仕事も教えていただいたが、酒豪でもあられた氏のお相手も、生意気ながら度々勉めさせてもいただいた。その後私にもいろいろとあって、謦咳に触れる機会もつくり出せず、最後にお会いしたのはもう十五、六年も前だろうか。
だんだん近づいてくる失礼な視線をお感じになったのか、立ち止まって私の顔を見るなり目を丸くされた。
「おお〜、こんなとこでなにしとる?」
「あっ! どうも! ……ご無沙汰しております。いやあ、こんなとこでお会いするとは……」
この辺りで写真を撮っていたところなんですと、写真家でもない素人の私にはとても口に出せず、ぺこぺこ頭を下げながら、
「ここらでちょっと、邪魔にならんように酒でも呑もう思いまして、歩いとったとこなんですわ」
「そうか。こんなとこ、呑むとこあるか。まあ、あるわなあ、ハハハ。ああ、ほんとに久しぶりやなあ、ハハハハ。うん、病気しとってな、入院しとった……」
「えっ? それは存じ上げませんでした。すみません申し訳ありません。で、この頃は……」
「う〜ん、ちょっと散歩ぐらいはしよるんよ、あれと……。ハハハハ」
「そうでしたか、いやあ、その節はお世話になりっぱなしで、面目もございません。いい歳こいてるだけでして……」
「いや、いや、いや、ハハハハ。そうか、せっかくやし、ゆっくりしたいんやけど、そこまで行かなならんので……、行きよったんよ」
「有り難うございます。今度ゆっくりとお話し聞かせていただきます。お足止めまして失礼いたしました」
少し離れたところでこちらを見ていらっしゃる奥様にも深く頭を下げ、両手でしっかりと氏の右手を握る。何かもう一言申し上げたはずだが覚えていない。少しお痩せになったろうか、ゆっくりとお歩きになるお二人を見送った後、涙が止まらない。やばいな、みっともないよ、こんなところで。

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Commented by 山之辺 at 2007-08-04 09:37 x
浪花は面白い看板だらけですね。
出世印、つい欲しくなります。
サヌカイト。なんじゃろかと検索すると
讃岐の石なんだ。それを使った楽器が。
http://www.geocities.jp/n_designing/Mutsuko_Fujii/Instrument/Instrument.html
で、カール・マルクスの顔。何屋なんだろ。
ひどく気になる。覗いてみたい。

長い年月が記憶の断片を醸造しているかも知れませんね。

PS.金髪好きご存知でしたか(滝汗)ネットも狭い。
Commented by Shashin_Zake at 2007-08-04 13:41 x
山之辺さん
「サヌカイト」とはそういうものでしたか。
ネットで覗いてみるとこのビル「アジアプレス」が入っていますねぇ。
オーナーは阪急東通りの「正宗屋」もやってるみたいですねぇ。
どっちが先なんでしょうか……。

マルクスの壁は老舗のロックイベントカフェ、CLUB「NOON」です。
ちょっと前までCLUB「DOWN」でした。
http://www.noon-web.com/
by Shashin-Zake | 2007-08-03 17:46 | モノクロ写真 | Comments(2)